営業活動を全くしていないにもかかわらず、フィールドフォースの売り上げの大きな柱となっている部門がある。野球練習場の施工だ。手がける物件の規模は、個人宅の庭から体育館、倉庫のリノベーションまで、大小さまざま。だが、根底にある思いは同じだ。野球に打ち込める場所が増えてほしい──。これは各地で運営するボールパーク事業ともつながる、野球普及への願いなのだ。
「プレーヤーの真の力になる」ために
「最初に手がけた物件……。どこだったかなぁ、今となっては記憶が……」
思い出せないほど多くの件数を手がけたからなのか、並行して何件も抱えていたからなのか、フィールドフォース社長・吉村尚記は、初めて手がけた物件に関する記憶が定かではないのだと振り返る。
ただ、練習場施工の手伝いをしたいと思った動機は、鮮明に覚えているという。
「2016年、東京・足立区のボールパーク1を作ったときのことです」
以前にも取り上げたが(⇒こちら)、ボールパーク1は倉庫をリノベートし、野球練習場として生まれ変わらせたものだ。この施工にあたっての一連の作業が、煩雑を極めたのだという。
「土木的工事に始まり、人工芝や防球ネット、照明、電気関係……。すべてについて、いくつかの会社に相見積もりを取り、どこにお願いするかを決め、発注する。値段ももちろんですが、品質や工期、近い、遠いといった地理的な条件なども含め、検討事項も多くて、とにかく大変だったんです」
そうした課題を一つひとつ、クリアして完成したのがボールパーク1だったのだが、そこで終わらないのが、フィールドフォースのフィールドフォースたるところ。全てのノウハウを、経験として蓄積したのだ。
「とにかく苦労して、ボールパークを完成し、立ち上げた。その経験を、次に練習場を作ろう、という人たちに役立ててもらえたら」
商売としての発想というよりは、使命感だった。吉村は言う。
「フィールドフォースの経営理念は『プレーヤーの真の力になる』。ウチがやらなきゃいけないことだ、と思ったんです」
それにより、フィールドフォースは野球用品メーカーだけでなく、建設業者としての顔を持つことになったのだった。
「餅は餅屋」
野球練習場として最適な、人工芝やネットの組み合わせは? そのために必要な補強工事は? 当初は手探りの部分も多かったが、いくつもの物件を手掛ける中で、この規模で、この天井の高さで、この柱数で、この梁で、この床材なら……といった具合に、条件によって、必要な部材や、それぞれに合った最適な発注先まで、引き出しはどんどん、増えていった。
「たとえばですが、ボールパーク1と、翌年にできたボールパーク2に使われている人工芝は、違うものなんです」
吉村が説明する。
「ボールパーク1で使われているのは、実際の野球場で多く使われているタイプの、芝丈が長く、ゴムチップなどが敷き詰められたものですが、2の方は芝丈が短めで、密度が濃いもの。下地のクッション性も違います」
ボールパーク1の営業を続ける中で、室内練習場により適した芝を求め、たどり着いた選択肢だった。
「そうして、ボールパーク1での経験も踏まえてつくったボールパーク2ですが、まだ足りないところもありました。中2階の手投げエリアの床にボールが当たると、かなり大きな音が響きます。防音性まで、考えてなかったんですよね」
最近の施工例では、ショッピングモールのテナントのひとつとして、などといったケースもあり、練習場の周囲の環境なども考えると、防音性が重要になることは少なくない。そんな場合には、あらためて条件に応じた素材選びが必要になる。これも多くの練習場施工をする中で、経験を積みながら増えていった知識のひとつだ。
餅は餅屋。餅屋がないのなら、自分が餅屋になればいい──。すべては「プレーヤーの真の力になる」ために。
巷では、野球を禁止する公園や広場も多い中、野球をしたい人が気兼ねなく、野球を楽しめる場所が増えてくれれば。すべての練習場は、ボールパークと同じ思いで作られた、兄弟施設、姉妹施設なのだ。
そうした思いを持って「餅屋」になった吉村だからこそ、企業秘密は何ひとつない。「依頼主の方にとって理想の施設になればベストなわけで、隠すことは何ひとつありません。全てを提示して説明し、必要ならばアドバイスすることで、安心してもらえれば、あとはそれぞれ、専門の業者さんに任せるだけ。ウチの仕事は終わったようなものです」
フィールドフォースとしての理想はただひとつ、野球をしたい人が野球を楽しめる空間が少しでも増えること、なのだ。
ニーズを商品開発に生かす!
では、練習場の施工がまったく商売っ気抜きなのかといえば、そういうわけでもない。
「適正な料金はいただきますし、練習場を作れば、当然、マシンやネット、備品の類の需要が出てきます。そこでウチの商品を使ってもらうことができますから」
そこで納入する商品は当然、通常の流通経路を経ることもなく、個別の送料も発生しないので、市場価格よりは安価に設定できる、フィールドフォースにとっても、依頼主にとってもメリットのある商品購入形態だ。
ただ、ここでも、単に既存の商品を売って終わり、ではない。
9年前、ボールパークを作るにあたり、吉村は多くの施設を観察して回ったという。
「それによって、気づいたことがあったんです」
吉村が続ける。
「たとえば、防球ネット。グラウンドで使うのと同じ感覚で、不必要と思えるほどに頑丈なフレームを使い、強度のあるネットをフレームにがっちり結び付けている。でも、フレームは必要十分な強度があればいいし、ネットは2枚を張り付けるような形の袋状にして、フレームの上からかぶせるような形にすれば、結びつけるような手間をかけずに済みます」
そのあたりの知識も情報も少ないときにつくった、ボールパーク1に設置されているマシンやネット、その他の備品は、すべて既存品ではなく、ボールパークのためだけに製作された、ワンオフの製品である。
「それではやはり、高くつきますよね。であれば、ウチはその用途に合ったものを商品化し、それを使うようにすればいい。お客様の側でも、より安価に練習場をつくることができる。まさしくwin-winです」
フィールドフォース製品のコストパフォーマンスを考えれば、練習場自体も、かなり価格を抑えることができる、というわけだ。
「こちらにしてみても、ピッチングマシンはもちろんですし、ネットにしても、あるいはバット・ヘルメットスタンドなんかの備品も、ボールパークや練習場での使用実績が生かされている商品は数多くあるんですよ」
そう、フィールドフォースの商品ラインアップの中には、ボールパークでのニーズにより開発、改良されているものも少なくないのだ。この先も、各地につくった練習場での要望から、新たな商品が誕生することがあるかもしれない。
空間プロデュースか、駆け込み寺か
もうひとつの利点が、依頼主のほとんどが、すでにフィールドフォースを知っている状況で依頼をしてくれることだ。
「そうなんです。依頼をいただくほとんどの方が、ウチの様々なギアを使ってくれているんです」
つまり、自分たちが普段、使っている商品を通して、フィールドフォースという会社に、ある程度の信頼を寄せてくれているというわけだ。
「口コミもあると思いますし、普段から商品を通して知っていていただいていることもあるのでしょう。安心して、お任せいただけるんですよね」
すべてはつながっているのだ。
空間プロデュースなのか、コンサルタントなのか、それとも駆け込み寺なのか。ユーザーのためという一心で始めたサービスが、社業の中における一業態というだけでなく、結果的に、いまでは会社の評価の一端を担っているのだから、不思議なものだ。
「とにかく、『プレーヤーの真の力になる』。これに尽きるんでしょうね」
現在も大小合わせ、10件以上の依頼を抱えているという。
「それによって、子どもたちが野球できる空間が増えていくのであれば、願ったりかなったり、です」
吉村はそう言って、笑顔を見せるのだった。